あの日からずっと、は外ばっかり見ている。
グロズニィグラードの中からじゃどうせ森しか見えないっていうのに、ずっと退屈そうに、それでも小さな期待を馳せて待ってる。俺はそれを見ていてもちっとも面白くないのに、を見てる。


「……あのアメリカ人、何て言ったっけ」
「忘れたな」

嘘だ。本当は知ってる。

「大佐に怒られるかもしれないけどあの人、悪い人じゃないわ」
「何を吹き込まれた?」
「別に吹き込まれたわけじゃない」


結わえ上げられた髪の毛を帽子の中に仕舞い込んだは、また窓の外に目をやる。あちらの方だって潜入しているわけだから、そう簡単には見つからないはずなのに。見ていれば見ているほど苛々してしまうのをわかって俺はを見続けた。

だってもし万が一、本当に、この施設内にあのアメリカ人が入ってきたら。

殺されるとか大佐がとかよりもまず、が何をするか分からない。敵同士であるがために口には出さないものの、実物が現れてしまえば大佐など犬よりもどうでもいい存在に成り下がるだろう。

「待ってるのに」

来るわけ無いだろ。必要以上に敵陣に入り込めば命を落とす可能性が上がるだけなんだから。
は聞いても無いのに俺に彼との出会いを語り始めた。

見張り番をしていたとき蛇に襲われて危機に立たされたところを助けてくれたこと、対応が冷静でかつ優しかったこと、醸す雰囲気が素敵だったこと。
それを話している最中のはとても綺麗な顔をしていた。普段の顔とは違う、丸みを持った雰囲気の表情を窓の外に向けながら、まるでこれからあいつに会いに行くみたいにわらって。
だけど俺は、ちっとも面白くなんか無くて。

静かで暖かいはずの部屋も、鬱陶しいものに感じる。手袋の内側の発汗が尋常じゃなくて、俺は思わず手を握ってしまった。だけどには見えるはずなんか無くて、見てくれるはずが無くて。


…」

「これ大佐に言わないでね。オセロットとわたしだけのひみつ」

ほら、そうやって俺を縛り付けて

「…わかった」

ちっともわかってなんかいないのに二人だけの秘密ってだけで、粋がって約束して

「蛇に襲われてるところを助けてくれるから、スネークって呼ぼうかなぁ」


それがコードネームだって事も知らずに子供みたいにはしゃぐ。今すぐ誰でもいいからこの部屋になにか違う話題を持ってきてくれる人間を求めたが、生憎誰も来やしなかった。広い一室の、暖炉の隣にちょこんと座るは些か寒そうだ。火の消えかけた暖炉に薪でもくべてやろうかと思ったが、そんな気力も失われていた。

手袋を外したの手は白く、小さい。
冷え性で、すごく冷たいのだ。
きっと今も冷たいままなのだろうと思うと、近付きたい一心で上着を手にして隣に座りたくなってしまう。
それができないのは俺が臆病なのと、彼女の崩れていく顔が見たくないから。

だけど、

「オセロットも、かっこいいって思ったでしょ?」

そういって笑顔を向けたを見て我慢できなくなった俺は目の前で歯を食いしばってしまった。
彼女は不思議そうな目でこちらを見ている。
「どうしたの?」



顔を覗き込んできた彼女の唇を俺は、