寒くて目が覚めた。布団の下にかけておいた毛布は足元を探ってみると丸まって隅っこに追いやられている。薄っぺらい普通の布団しかかかっていなかったから目が覚めたのか。
眠さに負けてそのままでいると、鳥肌が鳴き出して近所迷惑になりかねなかったので重い身体を起き上がらせた。
体からずり落ちた布団。触れた空気は刺すように冷たくて、思わず身震いする。今更毛布を直してもどうせ明け方また足元で同じ末路を辿っているのだろう。


寒くてもいいや、とベッドから出て、スリッパさえ履かずに部屋から出た。




フローリングは冷たくて、急速に足裏の熱が全て奪われていく。シャツだって着てるのに僅かな隙間から冷たい空気が侵入して来る。
歯の奥に無意識に力を入れて、足早に廊下を歩いて曲がった所の部屋に向かう。



滑り込むようにしてドアの隙間を通り、真っ暗な部屋にこっそり侵入した。耳を澄ますと、規則正しい綺麗な寝息だけが聞こえてくる。
私の部屋と違って整頓されているため、暗くても床においてあるものを踏んだり引っ掛けたりしない。その寝息に足音を立てないよう近付いていくと、一度だけ寝返りを打った。

足元にかけてある布団をめくると、私よりずっと大きな足がひょっこりと顔を出した。冷たい空気に触れているのにびくともしない。
それを良いことに頭から潜り込んでみる。あ、彼ももう毛布かけてるんだ、と中を見て理解した。


シーツも布団も彼の臭いで充満している。頬が緩んでしまうのは変態だからだろうか。


もぞもぞと腿の辺りまで慎重に上ってくると、ルートは見えない何かにひゅっと息を吸い込んだ。可愛い。
布団の中は彼の熱ですっかり温まっていて、しかも毛布を蹴散らさないからいい気持ち。潜り込んでよかった。




横になったルートに向かい合う形で頭を出すと、彼は小さな声で唸ってもぞりと身体を動かした。



「…………なんだ」
「夜這いでーす」
「意味分かってて言ってるんだろうな」

寝起きの掠れた声がしっかりと私の言い方に指摘を入れてくれる。
くすくすと笑って温かい彼のシャツに顔を埋めると、眠そうな大きな腕が私を包んだ。

「あったかい」
「どうせまた毛布を蹴散らして起きたんだろう」
「良く分かったね」

困ったように笑ったルートはぎゅっと肩を抱いて私を引き寄せ、頬にキスをした。


降りた前髪が瞼に当たってくすぐったい。すらっと高い鼻筋にキスし返してやると、照れくさそうに枕に顔を埋めてしまった。
枕の中でくぐもった声が「眠いときはいつもこうだ」なんて言う。どういう意味だか分からないけれど、きっと私の性格のことを言ってる。


「反則だぞ」
「反則ってなに?キスしたら駄目?」
「普段しないくせに」
「ルートもでしょ」
「俺はいいんだ」
「なにそれ」


彼にしては理不尽な理由だ、それほど照れているのだろう。布団に潜り込むことさえそう多くないので嬉しいと感じている事はこちらにも伝わって来る。
服の上から鍛え上げられた逞しい腕をさすって握り、寄り添う。足を絡めて密着すると、彼は私の足の冷たさにびくりと腰を引いた。
面白かったので足でズボンを上げてルートのあたたかな腿に足裏を宛がう。「あー!冷たい!」太い声が上がって、私は無邪気に笑って悪戯を続けた。
じたばたするルートから足を離してあげると、恨めしそうな声で私を呼んだ。にひにひと笑ってやるとほっぺをぐりぐりとつねられる。というか、すりつぶされる。痛い。


「目が覚めたじゃないか」
「温かかったです、有難う御座います」
「どうしてくれるんだ…ったく、明日は訓練だというのに」
「そっかー頑張れー」


超他人事。おやぷみーと布団に顔を埋めると、大きな手が私の顔を引っ掴んでもう一度向き直させた。
何事かと驚いて目を見開くと、彼は暗闇の中で意地悪そうな笑みを浮かべている。


「夜這い、しに来たんだろう?」
「いやあれは冗談で」
が冗談言うわけないよな。真面目だもんな」
こう言うときばっかりないこという。
「……………………」
「さて、じゃあ這ってもらおうか」
「……………いやあの。ええ、………えー」



夜這いしないつもりなら、こっちからするぞ。

なんて耳元で囁かれてしまった。もうされるしかないので大人しく兎になろう。



「温めてやる」



ぎゅっと目を瞑ってキスを受け止めると、彼はそれを了承の意と受け取って毛布ごと布団を蹴散らした。



091128