「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「何だその国民的アニメの来週も見るようにってじゃんけんでオチつくった笑い方」
「あれいつもじゃんけん負けるんだよねぇ。攻略法無い?」
「ねーよ」
二人ともゲームの画面に目を落としたままの会話。深い意味も無く、ただ気になったことを述べそれについて返答しただけのこと。
いい加減私はこの惰性に絡めとられた何気ない着かず離れずの関係を離脱したい。
ねえ、と視線を上げてギルベルトを見ると、彼は今だ「あー?」と適当な返事をしてディスプレイに見入っている。
ちょっと悪戯してやろうと、自分の持っていたゲーム機の角っこでギルの腕を揺らす。それでも負けじと指でボタンを連打し「うおー!」と奮闘する姿は可愛い。
けど、私がつまらない。
「何だよ」
「……楽しい?」
「おう!楽しいに決まってるじゃねぇか!」
「なにが?」
「ゲームが!!」
あっさりとそう応えてくれるギルベルト君に乾杯すべきか、嘆息すべきか。隣に女性が居て、仲が良くてといったらそれなりに意識してくれるものかと思ったけれど、
彼には常識が通らないことを良く理解する。
ばきゅーんとかずばばばとか聞こえてくるギルのゲーム機が鬱陶しくなってきた。私はゲームの電源を落として、ふっと頬杖をつく。
「何だよ」もう帰る?そう言ってゲームをいったん止めるギルベルト。ちょっと驚いて目を見開くと、なに?と首を傾げて私を見つめてきた。
さっきまで何を話してもゲーム機にぞっこんだった癖に、私がやめてみるとこんな態度を取るなんて。
どういうこと?私はどう答えれば、期待してる展開が待っているの?
「………いや、帰らないけど」
首を横に振るとギルは「あ、そ」とだけ言ってまた再びゲーム機に熱中しだした。………ゲームを叩き割るってどんな気分なんだろうなぁ。
暫くギルのゲームをする姿を眺めていた。唇が急に尖がったり眉が寄ったり「だぎゃー!」と奇声を発したりいろいろと顔面だけが忙しい人だ。
目が合ったのは眺め始めてから12分後。私への意識の無さが痛感できる12分だった。すこし目頭が熱くなるのは嘘。…かなぁ。
「どした?こっちやりてーの?」
「ちがうよー。私はそんなお子様なゲームやんないもんね」
「なんだと!?がやってんの俺のゲームの違うバージョンじゃねーか変わりねーだろが!」
本気で突っかかってくるギル。いきなりゲームに戻ったかと思えばそれを忘れさせるかのように本気で私に意識を向けてくるし、そうでないときはぱったりとこちらへの信号を向けてこない。はっきり言ってこいつのタイミングを掴み取ることができなくて、分からない。
話が合うし波長も合うもんだからつい気付けば一緒に居るけれど、好きとかそういう感情から来るものじゃなかった。
ギルベルトも特にそんな話は持ちかけてこないし、というか私が一方的にこんなことを考えているだけなのでなんだか寂しかったりもする。
だって私は乙女だからーと痛い子な主張を張り切ってしてみる。
「ゲームじゃなくてなんかほかのことしよーよ」言うと、「いーぜ!」と返ってくる。この前は「やだ!」だったんだけどなぁ。
わからないなぁ、と首を傾げている間にギルベルトは自転車に跨っていた。
手招きしてにかにかと笑い、私が後ろに乗るように促す。
「えー私重いよ?」
「だーいじょうぶだって!俺様を誰だと思ってんだよ!」
「俺様主義の一人楽しすぎる少年」
「そういう事言うとマジで乗せねーぞ走らせるぞ」
ごめんなさーいと適当に謝っていそいそと後ろの荷台に跨って尻を乗っける。重心がぶれて「おおう」とか言いながらバランスを取るギルの背中が近い。
正直にどきどきしながら身体を安定させた頃、「お願いします」と小さな声でつぶやくとギルが振り返って「お前掴まんねーと落ちるぞ?」と私の手を握って自分の腰に巻きつけた。
意外とたくましい体つきが私の腕を伝って来る。心臓は急激な血圧の上昇に捻じ切れそうだ。
よっしゃあこぐぞー、とペダルを踏み切ったギル。案外すいすいとこぐことができた。私が重いことを証明することは無かった、あせあせ。
こんな格好は、もう傍から見たら彼氏彼女関係間違いなしなのではないだろうか。
急に恥ずかしくなったけれど、同時に少し幸せな気分にもなった。
壮大な優越感に押されて、つい調子に乗った思っても無い言葉が口を滑る。
「ギルって私のこと、好きでしょ」
「何だよ、知らなかったのか?」
ぎこぎこと自転車をこぎ続けるギルベルトはあたかもそれが自然かのような素振りで私に問いかける。
予想外の返答に、私は思わず口を噤んでじっとギルベルトの広い背中に見入ってしまった。彼は至極普通に前を向いているので、表情は把握できない。
不意打ちを喰らった気分だ。酷く顔が熱くなるのを感じて、ギルの背中に顔を擦り付けた。
気の無い振りをしたかと思えば、平気で私への想いを告げる。それもまたあっさりと、淡白に。
思考の読めない人間だ。万華鏡のようにワンパターンで来ない。
会話の途切れた無言の自転車走行は私の頬に冷たい空気を当てていった。もう春も終わるのに、雰囲気の所為だろうか。
薄暗くなった空のかわりに電灯がちらほらと灯りをともし始める。ぼんやりと通り過ぎていく電灯を見ていると、ギルが唐突に私に問いかけてきた。
「お前はどうなんだよ」
違った間違えた。耳のフィルターが勝手にロマンティック思考に変換させた。
「実は後ろに乗っけてると自転車こぐの重いです」
そう来るか。