たくましい腕に抱かれてみたいと憧れた。純粋に。
長くしなやかな筋肉に覆われた二の腕は最高に甘美なものであると信じる。絶対に。
だけど信じるだけなのは、憧れるだけなのは、もう飽きた。
だから今日私はその憧れを達成してこようと思う。
がたーんがたがたどしゃずざざ
椅子から転げ落ちて慌てて立ち上がるもバランスを崩してその場にもつれ込むオセロット少佐の図。
山猫部隊の一人が「少佐!大丈夫ですか!」と身を案じてくる。オセロットは手で応答しながら、瞳だけは私に向けていた。
動揺に泳ぐ目。下睫が長いなぁと感心していると、彼は「おおおおおおおおおっお…お、お、」と唇を震わせた。
「お前、自分が何言ってるのか分かってるのか!」
顔を真っ赤にして大声を張り上げるオセロット。うわあ、可愛いなあ。
「女の子の憧れでしょ夢でしょ純粋な欲望でしょ!いいじゃんかよ!」
転倒した際に天井を仰ぐことになった椅子を起こしているオセロットは帽子を踏ん付けている事に気づかない。
「う、う、う、うでうで腕枕なんてそんな事此処で出来るか!!」
「此処じゃなかったら良いのか!ベッドの上なら良いのか!じゃあ今からベッド行くかにゃろめ!!」
スパーンと叩かれる。オセロットは顔が茹蛸みたいになってた。
私のジョークが少し過ぎたかもしれない。でもオセロットを構うのは面白くて、すぐにおちょくりたくなる。
私たちは別にそんな関係でもないし、そうなる予定も無い。だからこそその冗談で顔を沸騰させるオセロットが面白いのだ。
彼はぶんぶんと首を横に振って、深呼吸している。落ち着け、落ち着け、俺がこんな女の冗談に踊らされるわけ無い、と言い聞かせるように。
「と、とにかく、その腐れ願望は軍には必要無いだろ!却下だ!」
「なんだとぉ腐れ願望だとおおぉ!よくも言ったなウエスタンガンマニアめ!」
愛しい彼を思う年頃の綺麗な乙女なら誰だって夢見るはずの「腕枕」というシチュエーションをものの見事に「腐れ願望」という言葉で片付けるオセロット。
あまりにも酷すぎる。私だってその愛しい彼を思う年頃の(綺麗かどうかは自負し難い)乙女の一人(だと自分で思っている)のに!
座りなおしてそっぽを向くオセロット。うーん、私はどうしてもこの人の腕枕でないと気がすまない。
なぜならこの私はオセロット少佐に想いを寄せているからだきゃー暴露しちゃったあ!はっずかしーい!
「しなやかな筋肉のついた腕に恐る恐る頭を乗っけて『重くない?』そう彼に問うが、彼は微笑してちゅっと私のおでこにキスを落とした。腕枕はいい。だって愛しい愛しい彼の一番近くで眠りにつくことが出来「うるさいぞ!!」うわー中断された。
私のハイパー妄想劇場を中断しくさりやがりましたオセロット少佐はこちらを睨んでいました。
知らん振りをして視線を逸らし、慣れない口笛を「ひゅ、ふしゅそ、ひゅうぅうお」私口笛出来ないんだった。
じゃあいいよ、と諦めて彼に背を向ける。するとオセロットは何かものを言いたそうに口を上下させたが、自分も椅子と同じ方向に向き直った。
いいしいいし。ふーんだオセロットのバカヤローがと子供臭い拗ね方で機嫌を損ねながら呟く。
「スネークならしてくれるかなぁ」
がたーんがたがたどしゃだしだしだしだし
今度はバランスを崩してその場にもつれ込まなかったみたいだ。足音はこちらに近づいてくる。
肩でも掴んで止めるかと期待した。「っ、え、あ」次の瞬間、私の喉は酸素と二酸化炭素の交換を一時的にストップさせられる。
ひぐ、と空気が肺の奥で滞る感覚と、反転する景色。状況を的確に判断するころには天井が私の目の中に飛び込んでいた。
ずきずきと尻が痛む。どうやら床に叩きつけたようだ。いくら肉があるといえど、痛いものは痛かった。
CQCをかけてきたオセロットの腕は、私の頭を地面に叩きつけることなくクッションとして下に敷き詰められている。
私の頭の下はオセロット。右隣もオセロット。垂直に開かれたオセロットの腕の中に私は寝転んでいた。
視界の端っこでは山猫部隊の数人が驚いた目でこちらを見る様子が窺える。
「………………っし、CQCの技はこうやって隙を見つけてかけるんだ。いいな?」
何その『腕枕するのは恥ずかしいから自然と腕枕みたいになる攻撃してやろう』な姿勢。
私が夢見ていたのはもっと、こう、「うふふふふふ……」な雰囲気の、花の飛ぶような、あああああああもう!分かってない!
ごろりとオセロットの方に転がって顔を近づけると、オセロットは小さく「ぐぎゃ」と悲鳴を上げた。ちょっとレアな光景だった。
じっと青い瞳を見つめて、不意打ち。
「…!」
してやられたという顔に、私は思わず笑みをこぼす。
すっと立ち上がってオセロットの腕を踏み、「うがっ!」ドアの方へ駆けていく。
「CQCの伝授ありがとうねー!じゃ、スネークに腕枕お願いしてくるわー!!」
「ちょっ ちょっ…………………とまてえええええええええええええええええええええええ!!」