「ん、ん、もうすこし、あん」

「…もうすこし、何だ」

「うわ痛いいったい!もっと優しくして…!」
「これが普通なんだがな…」

自分の胸元にクッションをしいてうつ伏せになり、足を伸ばした体勢でいる私。と、その足の間に入るムキムキ。
これは何もモーションがなければ情事の類だとか思われそうだけど、今はしっかりとルートが私の身体をマッサージして
くれているのだ。
うん、そう自分に言い聞かせているものの恥ずかしそうにしている彼がとっても可愛らしいです、感嘆符。

大きくて不器用な親指が背骨沿いに下る。皮膚の下にたまる凝りと悪い血が一気に押し出されるような感覚に、脳味噌が
びりびり痺れた。口元が緩んで動物の鳴き声のような呻き声のような奇声を上げながら気持ちよさにこたえる。


「ルートの手は大きいから表面積でいっぱい揉めるよね」
「まあな。気持ちいいか?」
「うん、うん。う…ほぉぉぉおぉおぉぉぉ〜」
「……そんな声を出していたらそのうち魂ごと抜けるぞ」

両手で背中を押される。ぎゅっぎゅっと反動が付くたびに床に押しつぶされる肺が空気の逃げ道を探して口から洩れる。
ひょっ、ひょっ、とリズムに合わせて声を出すと、ルートは不思議なものを見つめるような目で私を見た。

「一日中パソコンと向かい合わせだと身体が凝り凝りになっちゃうんだよー」
「それは仕事でか?娯楽でか?」
「失礼な!仕事です!!」


小さくふっと笑ったルートは背中にあった手をするすると下ろし、足首を掴み上げた。ぐ、と体重をかけてくる。
足首にたまった乳酸を押し出すようにぐりぐりと捻りを入れられたからにはもう限界。クッションを握り締めて悲鳴を上げた。
「うべべべほああああああ無理!待って、いたい痛い!痛いです!」
「何でこんなところ凝るんだ?」
そう言いながら私の足首に力入れない、で!いたたたた!うげげげげ!両足なくなる!

両足をつかまれているので逃げることができない。芋虫のごとく左右に身体を振り回して痛みに耐えることしかできずにいる。手を休めようとしないルートの顔を睨んでやろうと振り返ってみると、心なしか些か楽しそうに見えた。


このサディスティック筋肉馬鹿。


「痛いって言ってるじゃんか!」
「マッサージはそれぐらいが丁度いいんじゃないのか」
「ド・痛いです!ああちょっと痛いなとかじゃなくてすごい、うん、ド!」

無意識にやってるだろその笑み、と蹴ってやりたくなった。まさかただのマッサージにおいてルートさんが性癖を曝け出すとは思っても見ませんでした。
お兄様不在で丁度良かったなぁと思いながらリビングで弟様のサディスティックマッサージを受けるってなんでだ。
さっきまでの恥じらいを持った可愛い可愛いわたしのルートヴィッヒは何処へ飛んで行ったのだろうか。


「ちょっと痛いって、やめ……… !」

びく、と身体が硬直する。ルートの手が足首からはなれ、やさしく上へ上がってきたからだ。それもただやめただけではなく、
そろそろと表面に触れているか触れていないかの微妙な距離でゆっくりと上昇したから。

「ちょ」太腿にかかる。「っ」おしりにかかる。「と」背中を越えて、「!!」脇腹に滑り込む。

指先はほとんど乳房に近く、今度は自分でなく心臓が悲鳴を上げ始めた。クッションの存在を忘れて潰れた肺で一生懸命呼吸する。苦しい苦しい苦しい。
「うわわわ、やだって駄目、ルート!」
「何がだ?」
腕に力を入れてルートの侵入を一生懸命拒んだが、顔ごと接近してきたルートの鼻息が耳にかかって力が抜ける。
くつくつと笑い始めた彼に恐れを抱きながら、私がいつスイッチを入れてしまったのか必死に思い出した。


「ねえ、マッサージは…!?」
「知らないな」
「はぁ!?最悪、ちょっと待ってそんなのりふじ…んっ!」
「じっとしていないとまた痛いぞ?」

胸マッサージしろなんて誰も言ってない。首を必死に振って抵抗しても、ルートは「お前が悪い」としか言わなかった。
朝からビールを飲んだからこんなにも唐突なのかもしれない。いやでも、
「っう」
服の上からねちっこく身体を触り始めたルートヴィッヒ。ああ飲んだな、と勝手に決め付けてビールを呪った。
そう、痛がった私のせいじゃない、そう思いたかった。



「あ、あ、あ、ハイ?」
「…いいか?」





(どうせ断らないの分かってるくせに!)



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リクエスト 独微裏