強くなりたかった。


私は強くなりたかった。



愛するもののために、これから先涙を流さなくても生きていけるように。
だから強くなるための任務なら、何でも遂行した。たとえ同胞を殺すような任務でも、全うした。







「う………………、」



撃たれた脇腹を押さえてその場に蹲る。少し深い所まで弾が入り込んだらしい。肉の中に弾丸が侵入している異物感が蠢く。
血液の抜ける喪失感が体を襲う。穴が開いた。身体に、穴が開いた。


!」



なんとか追っ手を撒いてきたスネークが、丸くなった私の背中に手を添える。
発熱と発汗が急激に体内の水分を減らしてゆくのが分かった。思わず傷口を手で押さえそうになる。
奥歯を噛み締めて立ち上がり、バックパックからサバイバルナイフを取り出す。軍服を脱ぎ出すと、スネークは気恥ずかしそうに床へ視線を落とすのが窺えた。

そんな事しなくても私は気にしないのに。どうせ下着だし。

肌を剥き出しにして体内に入った弾丸を穿り出す。
ぐりぐりとナイフの先で肉をえぐるのは、毎度毎度ながら苦しいものだった。
唇を噛み締めて弾丸を抜き取り、床に叩きつける。撃たれていい気はしないからね。


軍服を着なおすと、スネークは待っていたかのように口を開く。


「大丈夫か?」
「ううん、別に平気」


ずきずきと痛む脇腹に力を込めないようにそろそろと歩く。しばらくはこの小屋で穏便にしていないといけないらしい。
スネークが言うに、さっきの敵との対峙で警戒が高まったようだった。


「出血がひどい」
「大丈夫だよ、慣れてるから」
「だが…」


湿っぽい空気と、軋む床。大分穴が開いている。黴臭いから、きっとどこかで黴が粉でもふいているだろう。


すん、と鼻を鳴らしてスネークから一番遠い位置にある椅子に腰掛けた。



正直脇は酷く痛む。慣れている、なんて良いながらちっとも慣れていないものだし、だからといって大仰に痛がる必要も無いと思って嘘をついた。
何より、そんな弱いところを見られてたまるかという意地もあった。


はいつもそうだな」
「何が?」
「何があってもひとりで解決しようとする」



その怪我だってそうだ。指差されて、無意識に視線を左へそらす。


ふるふると首を振って笑って見せると、スネークは悲しそうな顔をして葉巻を吸い始めた。
もくもくと立ち込める細い白煙を見遣りながら葉巻を吸う彼の唇を盗み見る。
煙草を吸うひとの唇、わたしは好きだったりする。薄く開かれた唇から、白い滑らかな煙がふわりと出てくる様子はなんともいえぬ色気があった。



「……ねえ、葉巻、臭い」
「ああ、悪い」
「…悪いって思ってないでしょ」



ははと笑って注意を受けて尚葉巻を吸い続けるスネークを睨む。私は彼の葉巻を吸う姿、何よりも好きで、何よりも嫌い。
私の心の壁を、積み上げてきた強さの糧を、全て済し崩しにしてしまうから。だから私は、彼にタバコを吸われるのがあまり好きではなかった。



会話が消滅すると、それっきり。どちらからも話をしようという気は起こらない。



今にも崩れ落ちてきそうな古びた天井を見上げてみたり、食料になるネズミを追いかけてみたり。スネークはいつもそうやって無言を貫き通す。
私の方は、それを見て見ぬ振りをして無言を貫き通す。
それでも気まずい空気が流れないのは、別に両者とも相手を干渉しようとは思わないからだ。両者ともどう出ようかと探っていないからだ。


私はそれでもよかった。任務において私情が出ることなど、任務が失敗することと同じだと考えているから。



脇が痛む。

浅い呼吸を繰り返し、熱の所為で途切れそうになる意識を踏ん張って保つ。痛みを堪えるのは、慣れている。


「痛むのか」
「ううん、ちょっと疲れただけ」


首を振る。横に。けれどスネークははあと呆れたため息を吐いて、葉巻を靴で踏んで消すと、床に軍服を敷いてこちらに近寄ってきた。
あ。こっちに、くる。でも、頭が動かなくて拒否できない。私はスネークの太い腕に抱かれて、ひょいと持ち上げられた。
宙に浮く感覚。「ああいいよスネーク、そのうち直る、から」できればあまり触らないでほしい。



「これは二人のミッションなんだ。お前一人が倒れられたら困る」



そう低い声が顔の上で囁く。ああ今きっと、顔と顔がすごく近いんだろうなあ。でも私のぼやけた視界ではそれは確認できなかった。
スネークは軍服を敷いた床の上に私を置いた。衣擦れの音、身震いすると「寒いか?」優しく問いかけてくる声。
首を横に振ると、隣で腰を下ろす音が聞こえた。



「辛かったら遠慮なく言え。そんなことで強がってどうする」
つよがって、ない。声になっているかも分からないが、唇はそう動いた気がした。
はどうしてそうやって強がるんだ」
私は、つよがってなんか、ないって。念を押す。スネークは「いいや、強がっている」と自分の考えを否定しない。
「何かあったら言って欲しい」
わたしは、強いよ。だからなにかなんて、ないよ。
そう言うとスネークはもう何も返さなくなった。代わりに、私の頭を撫で続けた。






忘れようとしていた。

強く生きることで、私が弱く非力な人間であることを忘れようとしていた。

だけど私はそれを自分で認めたくは無かった。






だんだんと沈んでいく意識の中で、私は涙を流しながら彼の名を、