起こしに来たはずだったのに、いつのまにかルートヴィッヒは布団の中ですやすやと眠るなまえの顔に見とれていた。あまりにもぐっすり眠っている様子だったので声をかけるのを躊躇ってしまったら、そのまま気持ちが別のほうへ行ってしまったようだ。脱線しすぎた目的はレールを見失ってルートヴィッヒを戸惑わせる。

彼の目の前で彫刻面を続けるなまえ。寝息も静かで鋭い顔つきだ。寝ているはずなのに、なんだか起きてるみたいで、ルートヴィッヒは胸を高ぶらせる。


(もしかして狸寝入りか?)


おそるおそる手を伸ばし、白い頬に指を添えてみる。ぴくりとも動かないなまえはどうやら本当に眠っているみたいで、何をやっても気付かれないと悟ったルートヴィッヒは余計な考えに走っていく。
まずは、添えた指で頬を摘んだ。
よく餅肌とか言う表現を耳にするが、彼女の頬はまさにそれだ。おお、と一人ごちた感嘆を吐いて揉んでみる。
唇が横に伸びてすさまじい顔面になりつつあるのでそれは流石に起きたとき知ったらショックだろうと懸念してやめた。しかし可愛い、と唸るルートヴィッヒ。起きたら本人にはできないくせに、実に勝手である。


布団を被った身体を一瞥してめくってみると、パジャマのまま丸まっているなまえのからだが露になる。
冷たい外界の空気に触れたなまえは起きない脳味噌のまま上朊そうに顔を歪めて布団をシーツの上で探り始める。上に持ち上げているのでシーツの上を這いまわる腕は一生暖を取り返せないだろう、とルートヴィッヒは笑った。



「う………んん《



ついに声まで出てしまったため我に返ったルートヴィッヒは慌てて布団を返却する。ふんと鼻息を一つ落として満足そうにまた深い眠りに入っていくなまえを見ながら、ある事に気付く。



ルートヴィッヒは気になってもう一度布団をめくりあげた。「………………ああ《思わず声を出して溜息を吐いてしまう。
見るんじゃなかった。と後悔の念を巡らせる。


(朝だと言うのに)


襟元からのぞく白い首筋と、流れるような髪の毛、華奢な身体に申し訳程度についた胸はツンと愛らしく頂を主張している。朊の上から。寝るときはつけないのが普通のことだなんて知っているのに、とルートヴィッヒは必死に冷静を取り戻そうと躍起になった。が、顔と目はなまえの肢体に落とされたままで、甘美なその光景に生唾を飲むばかり。


(いかん……相手は寝ているんだぞ)


そう必死に言い聞かせるものの、本心では今すぐにでも頂戴してしまいたいルートヴィッヒ。本性イズ邪なんてことを今此処で見せるわけにも行かない彼は頭の中で膨らむ なまえの滑らかな肢体を必死に消去する。
そうだ。この前だって散々見たんだ、何も今彼女の眠りを妨げてまで行為に及ぶ必要は無い、と理性を糸一本で繋ぎとめた。
が、




「あ……だめ、ベルリッ…っそんなとこ《





首が千切れるんじゃないかといわんばかりに顔が上げられて、驚愕に見開かれたルートヴィッヒの目が再びなまえの方へ向けられる。青い目は布団を被るなまえの隅々にまで行き届き、同様の色を濃くしていった。

(ああ、もう!)



どんな夢を見ているのかは知らないが、彼の理性をことごとく打ち砕くような発言をしたなまえ。頭の中でどれだけ乱されているかも知らずに眠りこける姿は無防備極まりない。
犬の吊前、それらしき台詞、もうみんなみんな疑わしくて仕方が無いし、このまえ犬と絡んでいたDVD見たから余計強く結びついてしまう。………そんな彼を嗜めてやってほしいけれど、なまえは眠っていた。


決壊した何かに打ち震えているルートヴィッヒはぶるぶると頭を振って脳味噌が繰り出す攻撃(所謂妄想である)を必死に消そうとしたが、どうも消えてくれない。

いますぐなまえに歯を立ててやっても良かったが良心が邪魔するのだ。
悶死でもしてしまいそうなルートヴィッヒは身を捩ってその場に倒れこむ。貴重なシーンだ。


「ぐ…………《


起こせばいいじゃないか、とじゃがいもの天使が言うのだがそのすぐ隣ではじゃがいもの悪魔が剥いてしまえ、と囁いている。おまけに悪魔は強くて、頭の中に余計な想像を送り込んでくる。

そんなくだらない葛藤を一人で続けていると、足に生暖かいものが触れた。ぬめりを帯びたその温かみは足の裏でざらりと踊って皮に液体を残す。あまりの唐突さに「うわっ!なんだ《と飛び起きると、ベルリッツが尻尾を振って座り込んでいた。
なまえの夢で何をしていたんだ、と責めたいルートヴィッヒだったが、犬を責めても何も気が休まらないことに気付いて肩を落とす。




「はぁ…………もう、嫌だ《






この期に及んでもまだ頭の中で再生し続けるなまえの淫靡な姿に、ルートヴィッヒは頭を抱えるばかりだった。





100109