「愛してるよ!」


いきなり何を言い出すかこいつは。調子に乗っているのだろうか。こんな白昼堂々ちょっとした店の中で叫ぶ莫迦が此処に入る事に絶望した。
べつに人として軸がぶれているわけではない。あくまでも私は。

先刻のふざけきった一言を受け流し、気にもせず昼食にありつく。
アルフレッドは餌を待ち侘びる子犬のようにきゃるーんとかいう音が似合いそうな程の瞳を輝かせて私を見つめている。
他人のふりに果てしなく憧れを覚えた。


目を端にくれてやると、視界に入ろうと必死にアルフレッドが身体をずらして目の中へと入ってくる。
ぶっちゃけうざいので訝しい目つきで見返してやると、wow、と呟き肩を竦めて困ったように笑った。


「どうしてそんなに嫌がるのさ?」

「痛くて痛くてしょうがない上に常識を考えないメタボ野郎だから」

「そ…そんなにズケズケ言わないでくれよ!傷つくじゃないか!」


だって、ねぇ。私に向けて放ったその一言を耳にしたウェイトレスが不審そうな目つきで食事を運びながらアルフレッド…もといバカップル(私が入っているのが屈辱)
を見ていた。目を合わせたら心のどこかがブレイクしてしまいそうなので、ウェイトレスは見なかったことにする。


半分溶けてでろでろになったバニラアイスが乗ったホットケーキを頬張り、至福に顔を綻ばせるアルフレッド。撲りたくなるほどの素晴らしい笑顔だった。


しかし笑っても泣いても怒ってもアルフレッド。整った顔立ちが崩れることは無く、頬張る顔さえも私の心を締め付ける。
無言で見つめているうちに、店内の喧騒さえも耳に入らなくなるような甘ったるい雰囲気が二人を包み込み始めた。
だけど彼と同じ「けーわい」になりたくはないので、只管目を合わせまいと努力する。


「ああ美味しかった!愛してる!」

「分かったから黙れ。一生懸命黙れ。感想は言っていいから黙れ。」

、あい「どうしてそれを今ここで言うの!!」


不思議そうな目だ。私がそういう顔をしてやりたい。


「愛してるって言ったら、も言い返してくれると思ったからさ」

「TPOという言葉を知っていますか?それと、バカップルは他でやってください」

「さぁ、say!!」人の話を聞けよ。


そんなことを私に言わせて何をするというのだ。バカップルよろしく私は彼と空気読めない人生を歩めってか。そんなのは嫌だ。
食べることを忘れて私に話しかけるのはいいが、溶け切ってしまったバニラアイスがのこりのホットケーキに染み込んでべしょべしょになっている。
食べたらバニラの味しかしなさそうだ。

ねぇねぇ、ほらほら、と催促してくるアルフレッド。どうも私はそういった類のコミュニケーションが不得意で、彼に想いを告げることを躊躇ってしまう。
最も、この阿呆が場をわきまえて言動を慎めばいいだけの話なのだが。
そう、あいらぶゆーとか愛を囁きあう場所ではないのだ、ファミレスは。


「言ってよ!君からのが聞きたいんだ」

「え、………あ、あー………………」


おっほん、と仰々しい咳を一つしてアルフレッドを盗み見る。

きらきら、期待に満ちた目。引くという手段は持ち合わせてなさそうだ。
今にも雄叫びを上げて走り出して行きそうな羞恥をなんとか抑制して、口を開き発言を試みる。


「あ……、…………、……。」

「なに?はっきり言わないと聞こえないんだぞ!」

「あ………ああああ…、あまいましまてまるま!まぬけ!!」

「そんな言葉遊び要らないんだぞ!!」


見破られていた。うましかな彼には通じないと思っていたが通じていた。
テーブルの向こう側からにゅっと接近してくるアルフレッド。今後私はこいつの所為でこのファミレスを利用できなくなったと悟りながら、
接近してくるアルフレッドを押し返してなんとか発言に力を入れてみる。


「わわわかったから、ほら…ええとあのー……」

「なんだい?」

「い、いっひべりーでぃひしてるから」

「いひべりーでぃひ?」


駄目だ、性格が直線過ぎて変化球をキャッチしてくれない。デッドボールにすらならない。


は俺のこと愛してないのかい?」

不安げに眉を寄せたアルの顔。異常なまでに憎らしいのは、場を弁えない発言であったからだと思う。
そんな風に言われたら、私の想いを素直に告げなくてはいけなくなることを知っていて言っているのだろう、この人はたまに計算をしてものを言うのだ。
小さな罠にかかってしまった。意外と策士という事を忘れていた。

「っそ、そそそんなこと、」ないよ、と抵抗して首を横に振ってみる。すると不安げに歪められた顔面はゆるりと弛緩し、ハリのいい笑顔をくっつけて「じゃあ大丈夫だな!」と
再び私へ愛の言葉を催促してきた。

大丈夫ではない。

主に今後この周辺に出入りできないことを考えた場合と、私という常識的な人間の存在を考えた場合。


「とりあえず此処じゃやだ。」

「どうしてさ!もういいよの馬鹿!」馬鹿はどっちだ「帰る!」


乱暴に椅子から立ち上がって代金を払い、ずかずかと出て行くアル。しょうがないなぁ、と飲みかけのコーヒーを置いてけぼりにしてその後を追った。
随分と大股で歩く彼を小走りに追って行くと、彼は横に並んだ私を見て余計に気分を悪くした。

どうして笑ってるんだい、と低い声で私に問いかけて、小さく拗ねる。俯きかけた彼の頬はほんのりと赤く染まっていた。
可愛くて可愛くて、思わず盛大に吹き出してしまう。のどがひきつる程の笑いが私を襲ったが、彼はそれをたえられないという目で見ていた。
小さく小刻みに震える拳を握り締めて、なにがおかしいんだよぉ!と問い詰めるけど、私の脳味噌は今爆笑しなさいという命令しか出されていないので素直に笑い続ける。
アルフレッドは今にも泣き出しそうだった。なんだよその可愛いキャラはよー、と突っ込みたくなった。


「ひっ……ひ、ぶはっ、………ふぅ…………も、もういいよ」

「なにがいいんだよ!俺は今恥ずかしくて顔から火が出そうだよ!」

目尻からは水が出そうですよ。

「可愛いねーアルフレッドさんは………」

「ヒーローにそんな褒め言葉無いんだぞ!」


もうなんて知らないからな!と一層歩幅を大きくして早歩きになっていくアルフレッドを笑いながら追いかける。
後ろからちらとのぞく耳は赤く染まっていた。
こんなにも我侭で、こんなにも子供っぽくて、こんなにも素直。
















マイベイビー・アイラビュー!









愛していないわけが無い!