ぶっちゃけ邪魔だ、と思った。

もちろん彼等のことを嫌っているわけではないし、むしろ一緒に居て楽しいと思っている。
だけどそれとこれとは別って言う時があって、それは私が彼を見つめている時であって、

ああああああもう、あんたたちの所為で見えないじゃない。




180の高身長に、バスバリトンの太い声。広い肩幅から広がっていくしなやかな筋肉に、清潔な短髪を後ろに纏め上げた髪型。
軍服に包まれている体は大層逞しいだろう。そしてもみあげ。二の腕。


二の腕二の腕二の腕。


すべてがすべて私のツボな彼は、いつ何時見ても輝いているようにしか見えない。うわ、目が合った。私は疾きこと風の如しな速度で視線をそらす。
頬が赤くなるのが、自分でも分かった。恥ずかしくて、でも幸せで心臓が破裂しそうだった。
会話は良くするものの、色めいた話なんてものは一切無い。それどころか彼はフェリシアーノの事ばかりを話題にする。

正直彼のことをそんなに話されてもリアクションのし様が無いというもの。適当に笑って流すも、会話の途中に時たま見せる困ったような笑みに嫉妬した。ああ、フェリシアーノを慕っているんだな、フェリシアーノが心配なんだな、と伝わってくる。
ただそれだけの感情に、私の心は大きく掻き乱された。彼とフェリシアーノの親しい友情関係にさえ嫉妬した。
それと同時に、そんなくだらないことで嫉妬心を燃やす自分自身に辟易する。


現に今、食事中のフェリシアーノの口元が汚れているのを発見したルートが、親の様に汚れを拭いているのを見て、私は心を痛めている。これだけで痛めているのなら、まだいい方だ。

「わたし今こんなことでフェリシアーノに嫉妬してる」事を自覚すると、余計に胸は痛くなるばかり。



「どうしたんですか。、食べないんですか」
「…………うん、なんかもうお腹一杯」


すすす、と菊の方にディナーの乗ったお皿を移動させる。テーブルにかかった白い布地に皺が出来て、お皿が引っ掛かる。こぼれないように、と反射で出た菊の手が安全を確かめると、「じゃあ、お言葉に甘えて」そのまま彼の前へ移動していった。
菊も意外と食いしん坊なのかなぁ。どうでもいいことを考えながらまたルートを盗み見る。

今度はロヴィーノがルートにちょっかいをかけている。丁度私の真ん前に居るもんだから、私からルートが見えない。見えるのはロヴィーノの真ん丸い頭だけ。

銀色のフォークを握り締めて投擲してやろうかとも思ったけれど、この距離からじゃきっとフェリシアーノに突き刺さってしまう。別にいいけど。
はあと諦めてフォークを置き、シャンデリアを見上げる。


「ねえルート、ってさ………、男の子が好きなのかな」


ぶほっと食べ物を噴き出すリアクション芸人必見の態度を取った菊は、たんたんと薄い胸を叩きながら訝しい目つきで私を見た。
「な、な、………そんなことは無いと思いますよ、女性が好きなはずです」
「うーん、疑わしい」

眉をひそめてルートを見る。困ったような顔をロヴィーノに向けているのが目に入った。

「シャイなんじゃないでしょうか」
「なのかなー。」


よし。決めた。と椅子から立ち上がり、グラスを持ってルートの近くまで歩み寄る。折角の夕食会、頑張って履いてきた高めのヒールがこつこつと床の上で踊る。
こちらに気づいたルートは、不思議そうに私を見上げている。
持っていたグラスの中のワインが揺れて、ちゃぷん、と水音を立てた。


グラスを傾けて白い服に、零れてきたワインを撒き散らす。
びしゃびしゃと白に赤がにじんでいくことを厭わずに、最後の一滴まで。

フェリシアーノもロヴィーノも、菊だってルートだって目を真ん丸くして私を見ていた。
グラスを力強くテーブルの上に置く。だけどバランスを崩したそれは、ごろんと首をかしげて倒れた。
恥ずかしい。今から言う言葉に、ルートは耳を傾けてくれるだろうか。


一か八か。私は声を発した。



「零れちゃった、ルート。拭いて」




「ああ…………、……え」

何で、という目で。大きく見開いた目で。疑問を投げかけてくる。
ばかなことしてるのは分かってるけど、そうでもしなきゃ彼はきっと振り向いてくれないから。
私は体を突き出して、拭いてと伝えた。ルートは少し顔を赤らめながら、「これは拭いても落ちない」と呟く。

え。それって。それってわたしに脱げって言ってるの?ワインを飲んだ所為かあらぬ考えに走ってしまう私の脳味噌を、今は少しだけ感謝することにした。



一歩踏み出る。ヒールが鳴る。ルートは私から目が離せなくなる。




「ねえ」


こっちを向いてよ。

驚いているフェリシアーノもロヴィーノの目も気にならなかった。私にはルートしか見えていないから。
「…………ちょっと、ここじゃ駄目だ」



私の手首を握ったルートはさっと立ち上がって出口まで引き連れる。立ち上がる際に薫った微かな整髪量の香りが、少し私を高揚させた。
今大きな手が私の手を握っている。その事実だけでも嬉しくてしょうがなかった。



扉が開いて、私はその向こうに連れ出されようとしている。私はその向こうで彼に何かされる事を期待している。



扉が閉まる直前、振り返った部屋の中で固まっていた3人に、私はにっこりと手を振った。