私は甘いものが嫌いだ。
小さい頃からそういうものをあまり食べたがらなかった。
そのときは「別に食べられなくても良いや」と軽い気持ちで居たものの、だんだんと年を取っていくごとに思うようになる。
「普通の女の子のように、甘いものが食べられるようになりたい」と。
街中で美味しいジェラートを口一杯に頬張って、満面の笑みでにっこりしている女の子。それを幸せそうに眺めやる男の子。
私にはそれが出来ない。何だか昔を思い出して苦くなった。
いつだったか私も、異性をこれでもかと言うほど気にしていた時期があった。だけれど、それはそれ、これはこれ。甘いものを好きになるつもりは無かった。
それが原因か定かではないが、「あまり女性らしくない」という理由で別れを告げられたこともあった。
うーん。昔から女友達にも良く「漢気があるねえ」といわれたり「ドライだよね」と言われる事があった。男性からもそういう評価を良く受ける。
甘いものを食べられないと駄目?女の子らしいってどういう事?
その時は結構悩んだが、結局ドライな性格が災いしてすぐに「私は私だから」と考えるのをやめた。
だから私は今でも、そのまんま。何も変わっちゃ居なかった。
「!この前チョコレート買ってきたんだ。食べる?」
「いらない」
首を横に振ると、彼は「まあ、そうくるのは分かってたけどね」と苦笑いをした。コーヒーは苦いから飲まないよ、と子供の味覚を主張する。
アルはいつもジュースだ。純粋な物質を口に出来ないのかとたまに思う。たとえば水とか。
「なんで甘いものが嫌いなの?」
私の前の椅子に腰掛けたアルが問いただしてくる。チョコをがさがさと広げながら私の言葉を待っていた。
「うーん、わかんない。でも食べると胃がもたれるし、なんていうか…口に合わない」
「HAHAHA!性格も味覚に出るのかね!」
何だとう!それは私がすっぱいとか辛いとかしょっぱいって言いたいのか!確かにそんな感じだけどー!と一人自虐する。
アルは声高らかに乾いた笑いを投げかけ、その大きく開いた口にチョコを放り込んだ。
Delicious!と発音だけは一流な感想。
「じゃあ逆に聞くけど、どうしてそんなに甘いものが好きなの?」
「美味しいじゃないか!」
「…………わー」
それが理解できないって言ってるって事も理解してないから私もアルの言葉が理解できなくて結局両者分からずじまいになっちゃうだろそれじゃあ。
今の一文で余計わけ分からなくなった。もういいそうだよね美味しいもんねと頷いてあげると、you
see?と言われた。
私は伊達派ではなく真田派なのだ。ちっともときめかねえぞ。
ちょっと我慢すればチョコの一欠片ぐらい食べられる。そう言うと、「じゃあ食べなよ!きっと食べていくうちに慣れるんだぞ!」と笑う。
アルはチョコを箱からつまみ出して私の掌に乗せた。あまり食さないものだから、自分の手の熱だけでも溶けてしまわないかとさっと摘む。
「そんなにすぐには溶けないよ」と笑うアル。うるさい、私は今味覚という名の新世界へ飛び立とうとしているのだ邪魔をするな!
どぎまぎしながらチョコを口の中に入れる。ああ、やっぱり甘い。
うーん、ビターのほうがわたしの口には合うかもしれないけど取りあえず水!水をくれ!
私の口の中では茶色い固形物が原形をとどめなくなって甘さをふんだんに拡散させている。鳥肌が元気良く囀り出した。
椅子の下で手に力を込める。んんんんと思わず声を出してしまった。拒絶反応だ。
「ぁ、アル…」
顔を見上げて思わずどきりとした。
握りこぶしは緩む。
彼は、にこにこしていた。
私の密かな憧れであったあの図に、今なっている。彼は、今甘いものを食べる私を微笑んで眺めていた。
眼球の奥が沸騰するような錯覚にとらわれる。耳や顔の血流がよくなっていく。発熱する。赤くなる。照れるってこういう事なのか、
「美味しいかい?」
「…………は、あ、いや………」
まだ飲んでませんでした。
喉元を通過させ、ふうと息を吐く。心臓はまだ悲鳴を上げているようだった。
「どうだった?」
「やっぱりあたしは甘いもの嫌い」
うーんそうかーと軽く笑うアル。別にこの人は自分が食えりゃいいんだ。そういう人だから。
私は見てるだけでいい。憧れはそのままにしておこう。
私は見てるだけでいい。十分に甘いひとをこの目で毎日見ている。
甘いものは、彼一人で十分だ。