久しぶりの休暇でわくわく。新しい服でも買おうかなぁ。そろそろ秋物も出回る頃だし、と一人この久々の自由な24時間をどう過ごすか計画を立てていた時。


『バイクに乗せてやる』
そう来たから私は呆れた。





スキニーデニムに包まれた足を、 は力なくぶらつかせた。ダンデムシートに乗っかっている尻はそわそわと落ち着き無く動いている。
フェイスヘルメットを素早くかぶったオセロットは、もう一つの赤い小さなフェイスヘルメットを の頭に被せた。

「ノーヘルで乗る気か。ほら、ちゃんと被れ」

「あー買い物行きたいな。服欲しいなあ。今日は映画にも行きたかったな。あっ!好きなアーティストのCDも予約したかったんだ!あーあ。…ああああああああーあ。」
「……ほらステップに足つけろ。腕は俺の腰!」
「今日は暑いし帽子も買いに行きたかったなー。暑いなー。あーあーあーあー暑いなー!!」
「これから涼しくなる!」


今だ愚図るの意思を放り出し、無骨な手でバイクのキーを回した。エンジンがギュルルンと音を出したのを合図に、アクセルを一発ふかし250ccの鋼の塊は勢い良く走り出した。


青い景色が流れていく。心地良いスピードと風にすっかり乗り気になったは、前を走る車を追い越せだのもっとスピードを上げろだのと我侭を言い始めた。

「ったく…子供だな」
「うるさいよ!聞こえてるの?」

は身を押し付けて顔を覗き込んでくる。安全第一だろ、と念を押すと、ぶうと唇を尖らせながら『どっかの誰かさんたちをバイクで追いかけた挙句銃で撃とうとしたヤツが言う言葉かー!』と反抗してきた。否めないオセロット。言葉をなくして思わず無言になってしまう。
風を切る音が耳元でする。涼しい風が頬を滑らかに滑っていき、オセロットとを撫でていった。


「なんでバイクに乗せてやるなんて言い出したの?」


びゅうと風が吹いて、の髪の毛を靡かせる。エンジンの音の所為で途切れ途切れにしか聞こえないが、オセロットは大きめの声で返す。
「別に理由なんてない」
「ええ!?じゃああたしの用事はどうなるのよ!」
腹を立てたトーンに早変わりした声。少しロマンチックな答えを期待した所為でもあるな、と一人にやけるオセロット。
がすがすとヘルメットで頭突きをかまして来る。背中に丸い部分が当たっているだけなので然程痛くは無い。余計にオセロットはにやにやするばかり。


「なによこのガンマニア!あたしをどうしようってんだきゃああ助けて変態が私をバイクでロマンティックにさらってゆく!」
「いてっ、騒ぐな馬鹿!」


がぶりと背中に噛み付いてぐりぐりとすり潰すようにあごを動かす。恋人とバイクでニケツして走行中に喧嘩っぽくなって彼氏の背中に噛み付く光景は見たことない。
背中で何が起こっているのか分からず、ただ痛いだけのオセロットはアクセルをふかしてスピードを上げた。
一層強くなった風に目を細め、噛み付くことをやめたはオセロットの肩から前を覗いた。


車をすいすいと抜けていくほどのスピードで、自分とオセロットは走っている。


それに興奮して「わあ!」と声を出すと、オセロットは「痛くなくなった…」と安堵のため息を漏らすのが聞こえた。


「海だよ、海!」指差す先にはコバルトブルーの海が広がる。「ああ」此処につれてくるためにバイクに乗せた、なんて事は恥ずかしくて言えないオセロット。


「寄っていこうよ」
「いいぞ」

きっとそう言うと思って。だからこの道を選んでバイクを走らせた。
そんなことはきっと知らないだろう。
後ろを振り返らずに、オセロットは優しく笑った。


ふたりを乗せたバイクは風を裂き疾走する

夏の眩しい太陽を受け煌きながら

やがて心地良い潮風と、




一面の、青