フェリシアーノの行動を見習えばルートヴィッヒと仲良くなれるのだと最終的な結論にすわった後、
私は一日、ルートヴィッヒとフェリシアーノを穴が開くまでじっと見つめた。学習の為だ。嫉妬とか嫉妬とか嫉妬とかそういうものは無い。
そこで学んだ事を今日彼に実践してみようと思う。
「おはようルート!」
「ああ、お早う」
挨拶を交わしてハグとキス。………………………を、今日こそしてみせる。菊兄さんの控えめな性分を血で引いているようだが、踏み出さなければ何も起こらない。
この際自分でなくなっても攻撃はしていこうと思う。
普段挨拶とアイコンタクトだけで精一杯だったというのに、いきなり今日唇が頬を掠めることなんてできるだろか。
会議場につくまでの道のりが勝負だ。キスとハグ、挨拶なら誰に見つかっても噂は流れまい。
羞恥と矜持を遥か彼方に放り捨て、一生懸命の背伸び。頭一つ分程の身長差を埋めるにはこれしかなかった。あのフェリシアーノでも届かないというのに、私が届く筈が無い。彼が屈んで唇を近づけて来るはずだった。
しかし何時まで経ってもそれが私の頬を滑るでもなく、彼は背を向けて淡々と道路を歩いていく。
「どうした?背伸びなんかして」
何か見えたか?と首を傾げるルートヴィッヒ。唯一見えたのは貴方の私への気の無さだけです。
フェリシアーノの様に、はぐーとかきすーとか素直に言えないものだから、要求をのんでもらうことは余りに遠回りで困難だ。
ツンデレを目指しているわけでもないし、かといって甘えん坊さんを目指しているわけでもない私。どうすればいいのか分からない。
こんなときに未来のネコ型ロボットとかが居れば私は強靭、無敵、最強!になれるのに。
静かな町並みを二人で歩くのは、良くある事だった。
菊兄さんは午前中仕事に行っていて、この日の会議は仕事場から向かう予定になっている。だからこそ私の前には彼だけが歩いていて、通り過ぎ行く人たちが私と彼をどんな目で見ているのかと優越に浸れる時間であった。一歩引いた目線からの彼。広い背中とがっちりした肩幅、抱かれたら抱擁感があるんだろうなぁ、と
乙女紛いの思考を巡らせる。それは日常茶飯事で、行動に移せたことなど一つも無かった。
だけど今日は違うのだ。あの甘えん坊から学んだことを今活かさなければ次は無いと思ってもいいくらいに私は追い詰められていた。
彼の行動をいまいちよく理解できていなかったが、とりあえず真似してみようと躍起になる。
小走りで彼に近付いて、前のめりになり頭を突き出す。
倒れないように裾を掴んで頭突きした。そのまま頭を離さずに左右に頭を振ってぐりぐりと押し付けてみる。確かフェリシーアノはこんなことをしていた気がしたから。
「な……?」
「あっ……あっははは、今日も天気良いね!!」
「え?あ、ああ……そそそうだな」
ぎこちない返事。私の笑い声も敷き詰められたレンガの道に吸い取られていく。ああこの後はどうすればいいんだっけ。
羞恥に思考回路をやられてスムーズに思い出せなくなってしまったので、裾を掴んで頭を押し付けたまま歩き続ける。傍から見たらどうしようもない格好になっていることも分かる。
動揺しているのか、ルートヴィッヒの歩き方もぎこちなく一直線に足を運べなくなっていた。私の頭は下を向いているので、流れて行くレンガと二人の足が見える。
何度か彼の靴のかかと部分を踏みつけそうになりながら、無言で歩き続けた。
「あっ……きょ、今日はちょっと冷えるねこんなときはムキムキがあったかくで役に立つね!!」
腕を回したのはルートの筋肉質な腕。踏み込みすぎてルートの足を踏んでしまったけれど、私の目にはレンガしか映っていないので痛がっているかどうか分からない。
振り払われてしまわないように、傷付かないように、ぎゅっと腕に力を込めて頭を上げる。
見上げた横顔は、耳までが真っ赤に染まっていた。
振り解こうとしない彼の意志、それが何を意味しているのかなんて分からない。だけど期待が胸を張り裂けて叫び始める。
誇大な自惚れとその先にある期待、私はそれを抑えられないで居た。
「……………ね、ルート」
「…………」
返答は曖昧だった。目だけをこちらに向けて、ふいと逸らしてしまう。フェリシアーノとは全く違う反応なので、これが効果抜群なのかいまひとつなのか分からない。
けど、私の傲慢な心はそれを「照れ」だとしか受け止められないで居た。
フェリシアーノと待ち合わせているところまであと少し。彼が加われば、会話は無くなるに等しいものになる。
なくなってしまう前に、フェリシアーノに取られてしまう前に、私は彼と近付かなくてはいけない。
脳味噌が軋む。血圧が急上昇した所為だと思うけど、それでも外の空気は肌寒く私の頬を冷やした。
皮膚の上を滑る風が弱まって、乾いたうねりへと変わっていく瞬間。
「!」
横へよろけたルートヴィッヒが自分の頬を手で覆う。階段が見えなかった所為か段差に足を引っ掛けた彼は、無様にも巨体を横倒しにして大仰に転ぶ。
尻を強かに打ちつけたようだ、さすって歯を食いしばっている。
私が口付けた左頬。転んだにもかかわらずずっと手で覆っている。私のジャンピングキッスをまともにくらったルートヴィッヒの反応は凄く面白い。
自惚れがどんどん大きくなっていくのはあなたのせい。
「なっ、な………!」
「えっへっへ!挨拶だよ!あ、い、さ、つー!!」
鼻を擦って白い息を笑い声と共に吐き出し、悪戯にルートの前を走っていく。数百メートル先にはもうフェリシアーノの姿が見えていた。
それに向かって一直線に走り出すと、後ろから大きな声で私を呼ぶ声が聞こえる。
フェリシアーノに感謝。
効果は敵面だったようだ。