俺の想像する女性というのは、







こう、なんと言うか………………どこかに行きたい、アレがほしい。これを買って。一緒に居て、キスをして。

そんな沢山の欲求があって、それでいて可愛らしい。砂糖菓子のような甘みのある生き物である、と思う。だけど現実と理想というのは大きくかけ離れていたことを実感した。






現に今俺の隣に座る女性(という性別に隷属するかどうかも疑わしい)は、雑誌に目を落としたまま無言でいるのだった。


「暑くないか?」
「うん」


「…腹減ったか?」
「ううん」


「………雑誌…………楽しいか」
「うん」




昔観た映画は、二人きりの車内、ドライブの楽しみは助手席にいる君との会話。君は恥ずかしそうにはにかみながら、運転してくれる彼に「楽しいね」と言うのだった。

そう、そんな情景描写があったのを覚えている。だが何だこの状況は。俺がロマンチストすぎるのが悪いのか?それともこいつが単にリアリスト?違う…リアリストじゃないこいつ。


映画のような雰囲気にあこがれてドライブに行こうなんて誘ったものの、は窓の外を見ようともしなければ、彼氏であるギルベルト様の顔を見ようともしない。
イエスオアノーでしか返事してないよ。もっと話題を膨らませろよ。ツンデレかお前は。

ツンデレにもきちんとした比ってもんがあるんだぜ、ちなみに俺はツンが7割デレが3割で魅惑のツンデレが調合されると思っている。


そんな比を欠片も気にしないは「あー、服欲しいなぁ」………口を開いたかと思ったら自分のことか。



「おい、なんかもっと『ぎるとのどらいぶまんせー!!』的な話ねえのか」
「ないよ」
「反応がはええよ」


淡白な顔でそう返されると余計に気分がへこむ。まぁ、はドライなもんだからしょうがない。…色のある雰囲気が苦手なのはわかるが、だからって彼氏にそういう顔しないでよお!ばかぁ!どこかのあいつになって行き場の無い悲しみを吐露してみた。






窓の外は海で、潮風の心地よさが入り込んでくる。左側に座るの髪の毛がさわさわと揺れて、微かな石鹸の香りが鼻をくすぐった。


高い位置から見る海は、昼の太陽の光を浴びてきらきらと輝いている。俺はこういうのを見てはしゃいで欲しいんだよ。
きゃーぎる海だよー!おーそうだなきれいだなーちょっとよっていこうよー!いいぞー足だけ浸かってくるか!
的なこう………………あ、なんか涙腺が緩んできたどうして?



「わーぎる海だよー」
「! おうおうおう、そうだな!きれいだなあ!!」
「潮風べたべたするね」
ががががーと窓を閉め始める。うおおおおおおおおおおおお!違う!なんか違う!
「待って待て待て待てまま待て!何で閉める!」
「だってべたべたするから」



淡白な顔で再び返される。でも俺様泣かない!

「バカ!閉めんなよ潮風をもっと感じろ」
「何その微妙にかっこつけたような台詞……うわっ」


運転中にもかかわらず左側に半身を倒し、閉めようとした窓を開け放つ。再び入ってきた潮風は、乱暴にの頭を吹き付けていった。
顔に髪の毛がだらりと垂れ下がり、某ホラー映画のあの子みたいになっている。
ぶっと噴出して笑うと、細く滑らかな髪の毛をかき上げながら「笑うな!」と怒り出した。


「何だよお前それ貞子じゃねえか!」
「うるさい!これは風のいたずらってやつさ私はこんなドライブ中にホラーを求めてなんかないわい!」
「俺だって求めてねえよ!でもホラーだぜぶはははははは!なんでこんなロマンも糞も無い空気になってんのか分かんなくてホラーだぜけせせせせ!」


自暴自棄は大声で本音を暴露した。涙腺が崩壊しそうだったけど取り敢えず笑えたのでよかった。
「え、そういう空気になりたかったの?」
「え、あ、は、」
髪の毛を耳にかけるの動きがぴたりと止まり、俺の顔を覗き込む。まぶたの奥に蠢く茶色の瞳が、泣きそうな俺の顔を映し出していた。
「お、おいちょっとちか」くそきっとこいつ絶対無意識にやってる、だからドライなこいつでもこんなことできるんだ!「ねえ、」


長めのまつげがふと頬骨に触れる距離まで顔が接近してきたとき、羞恥でハンドルを誤って崖からアイキャンフライしそうになった。





「うわああああああああ!!」ゆれた反動で自然とは俺のほうへ傾く。ベルト無着用だったは不可抗力にも俺の胴体へと両腕を伸ばしてきたうわあばかやろうベルトぐらいしとけ

なんとか漢の意地でハンドルを元に戻し、安全運転を再開する。




心臓がばくばくしている。危機感にさらされた後の独特な脂汗がにじみ出てくるのがわかった。






「うううび………びびっくりした………」

「っかやろ………アメリカ映画のスタントマンがどんだけすげーか分かったぞ…」





を見下ろすと、淡白とかツンデレとかさっき言ってたこと全部放り投げてしまえるぐらい可愛かった。涙目で眉を下げながら、泣き出してしまいそうな口をきつく結んでいる。
ゆっくりと茶色の瞳がこちらを見上げてくる。さっと視線を前に戻すと、口だけを動かして離れるよう促した。



「あ、……………………すっ、すけべ」
「何でそうなる!!」





折角いい雰囲気になったかなぁと思ったのに、またそういう事言いやがる。














結局は窓を半分閉めながら、苦笑いをしながら「ま、甘い雰囲気にならない方が、お前と俺には合ってんだろうな」と思った。























ノンシュガーハニィ     たまに出る甘い蜜にご注意










(こ…ここ何処だ?)
(もうギルとドライブ行かない!)